アリスズ


 吉井景子、32歳。

 多分、好きな男の子を産める機会は、もうそう多くは残されていない。

 それならば、と。

 彼女は、アディマの子を産みたいと思った。

 心も思ったし──子宮もそう思ったのだ。

 イデアメリトスの子を産む、という覚悟はない。

 ただ、アディマの子を産みたい。

 その気持ちに、景子は逆らえなかった。

 逆らえば、二度とその機会は彼女の前には訪れないだろう。

 だから、目の前のロープに手をかけたのだ。

「貧相な身体だな…」

 景子にお湯をぶっかけながら、ロジューはひどいことを言った。

 あう。

 もうもうと湯気のたちこめる浴場にいるのは、たったの二人。

 立場上、景子はロジューの側仕え、という扱いだ。

 なので、周囲にはロジューの湯浴みのの手伝いに、景子が入っている──そう思われていた。

 だが正確には、宮殿の勝手の分からない彼女を、イデアメリトス自らが湯船に放り込みにきたのである。

 そんなロジューは、筋肉を伴った美しい身体を持っていた。

 彼女から見れば、大半の女性の身体など、貧相なものだ。

 景子だって、日本ではカロリーオーバーを恐れる程度の身体はしていたのだ。

 しかし、この国に来て1年以上。

 粗食での生活が当たり前となっていたため、二回りは自分が小さくなった気がした。

「まあいい…これから、いくらでも太らせてやる」

 まるで、家畜の鳥を前にしての発言だった。

 ひぃ。

 光るロジューの目に、景子は腰が引ける。

「まあ…身体は貧相だが」

 そんな景子を磨き上げ、大きな浴槽に沈めながら、ロジューはため息をついた。

「妙に度胸だけはあるな」

 イデアメリトスの子を、産んでみようなんて。

 変な角度から、感心される。

 誰が、最初に焚きつけたんですか!

 そう突っ込みたい心を、景子はぐっと我慢しなければならなかった。