アリスズ


 どう、笑えばよかったのだろう。

 景子のたどたどしくも、怪しい日本語の説明で、菊はこみあげるものをこらえるので必死だった。

 二人きりでいることに、小姑リサーが小言を言いに来たら、返り討ちどころか木っ端微塵とか──おかしすぎて、胃が裏返りそうだったのである。

 やるなぁ、若さん。

 菊は、彼の甲斐性っぷりに感心さえ覚えたほどだ。

 だが、爆風に巻き込まれた景子ときたら、オロオロでボロボロでヨレヨレだった。

 テンションが、さっきから天井から奈落まで行ったりきたりしている。

「とりあえず…景子さん、今日は寝ない?」

 呼吸が、とても疲れているのが分かった。

 これでは、本当に知恵熱でも出しそうだ。

「でも…だって…」

 興奮しているせいか、本人はまったく気づいていない。

「さっきの若さんの様子からすれば、答えを急いでいるわけじゃないさ。大体、都とやらに帰り着くまで、1年以上はあるんだろ?」

 ベッドに腰掛ける景子の、肩を叩いてなだめた。

 その肩が、パンパンに張っているのが触れるだけで分かる。

 相当、力を入れ続けていたのだろう。

「こういうことは…急いでもいいことはないよ」

 言いながらも、御曹司の方が少し求婚を、急いだようにも思えていた。

 ただし、答えは急いでいないという矛盾を含んでいる。

 景子が、これから選択するもののひとつとして、明確に刻んでおきたかった──そういうことだろうか。

 彼女らは、この国の人間ではない。

 だから、本当の意味で、景子を縛るものなどないのだ。

 どこへ行こうが、誰を好きになろうが自由。

 その自由選択のひとつを、自分にしておかずにはいられなかったのか。

 項目として用意しておかなければ、景子はそんなとんでもないことに手を出す冒険心など、ないだろうから。

 将来、王様かそれに似たものになるとかいう男との結婚を、選択候補に入れる厚かましさなど、菊や梅にだってない。

 とりあえずは。

 興奮したままの景子を、休ませなければならない。

 梅を寝かしつけるより──ちょっと時間がかかった。