アリスズ


 ぐったりした梅を抱えたまま、景子はただひたすらに光の動きを追っていた。

 菊の光が、最初の集団と接触した時は、自分の心臓が口から飛び出すんじゃないかと思ったほどだ。

 梅の声は届いただろうが、向こうが菊に危害を加えないなんて保証は、どこにもないのである。

 それに、後方の怖い集団も、どんどん近づいてきていた。

「あ…」

 光が、分かれた。

 二つの光点を残して、他の三つが離れたのだ。

 菊は、残った方だった。

 離れた光は、こちらに向かってくる。

 まばゆいほど美しい光が、景子たちの方へと近づく。

「──!」

 女性の、掠れた悲鳴のような声が聞こえる。

 息も絶え絶えで、うまく悲鳴にもできずにいるのだ。

 それと、男の気遣うような声。

 まばゆい光は、その二人ではなかった。

 光が近付けば近付くほど、その大元は大きくなかったということが分かる。

 それは、小さな子供の姿をしていたのだ。

 その目が。

 景子を。

 見た。

 闇夜。

 他の人には、まぎれもない闇夜の中、彼女は光に見詰められたのだ。

 子供の姿をしていながら、それが子供ではないことを景子は気づいた。

 子供特有の光ではなく、それはもっと深く艶やかだったのだ。

「───」

 その子供ならざる者が、何かを語りかけてくる。

「あ、あの…言葉…分からないの」

 梅は気を失っているため、答えられるのは自分だけ。

 ただ。

 どきどきした。

 怖い、という意味ではない。

 その瞳と光に、魂を持っていかれそうでどきどきしたのだ。

「───」

 子供ならざる者が、静かに言葉を紡ぐと。

 一緒にいた女は、ほっとしたようにその場にへたり込んだのだった。