アリスズ


「アディマ…」

 微笑んでいる彼に、景子は何かを告げようと思った。

 まだうまく頭は回らないし、身体もガチガチだが、がんばって唇を開こうとしたのだ。

 なのに。

 ノッカーが、鳴った。

 景子はびくぅっと、ソファの上で縦に跳ねる。

 おかげで、身体の固まりは取れたが、心臓は早鐘のようにガランガランと打ち鳴らされた。

「リサードリエックです」

 訪問者が彼だと分かって、早鐘は更にスピードを上げる。

 一人でガクブルしている景子をよそに、扉は開けられた。

 第一に、アディマに礼を尽くした後、即座に視線が景子に向けられる。

 痛い痛い。

 視線だけで、彼女を既に責めている。

「夜に、男女が二人きりで部屋にいるのは…不適切だと思いますが」

 そして、やはり言葉が刺さる。

 これまで、彼は別室だったので気づかなかったのだろう。

 今日、どこから漏れたのかは分からないが、明らかに景子の訪問を咎めるために来ているのだけは分かった。

 それくらい、視線が彼女に一直線だったのだ。

「では、リサードリエック…君も同席するかい?」

 しかし、アディマは悠然と答える。

「そういう問題ではありません」

 ぴっしゃり。

 リサーは、すぐさま彼の言葉を切り落とした。

 アディマが、論点をわざとずらしていることを知っているのだ。

「ご自重下さい、と言っているのです。我が君は、都に戻られたら、すぐに伴侶をお探さしにならなければならないのですから」

 ダバダバダバ。

 立て板に水の勢いで、忠実なる従者は一気に語ってくださった。

 は・ん・りょ。

 その言葉に、景子の方が戸惑ってしまった。

 二十歳にもならない青年が、もう結婚相手を探さなければならないのだ。

 余りに現実味がなくて、景子はぽかんとしていた。

「ああ、リサードリエック…その件だけど」

 アディマは、彼のわめきにまったく動じる様子もない。

 それどころか。

 さらっと。

 まるで。

 下の方の役職でも決めるかのようなあっさり感で。

「僕は、ケーコが適任だと思うんだが」

 爆弾を投下してくれた。