アリスズ


 景子は、梅の身体を支えるようにしながら、一生懸命遠くの光を見た。

 植物とは違う、光の群れが二つあった。

 最初の群れは小さい。

 数人だ。

 その後ろから、百ほどの大きな光の群れが見えた。

 百の声は、はばかる様子もない。

 風に乗って、その声は大きくなってゆく。

 景子は、梅と顔を見合わせた。

 分からない言葉だったからだ。

 少なくとも──日本語ではない。

 黄泉の国では、独自の言葉を使うのか。

「興奮して…怒った声なのは分かりますね」

 進み出た菊を気遣う視線に戻しながら、梅が呟く。

 確かに。

 見える光も、後方のものは猛々しかった。

 だが。

 前の数人のものは。

 ひとつ。

 とびきり美しい光が混じっていた。

 他のいくつかもとても綺麗なのだが、そのひとつが、ずば抜けて輝いているのだ。

 その光に群がる羽虫のように、後ろの百が追いかけてきている──景子にはそう見える。

「前は…だめ」

 無意識に、彼女はそう呟いていた。

 もしうっかり、菊が手を出したら、大変なことになる気がしたのだ。

 そんなこと、彼女に伝わるはずはない。

「前? 何か見えるんですか?」

 その呟きに、梅が反応する。

「え、あの…その」

 とっさにうまい言い訳は考えられず、景子は言葉に詰まった。

 そうしたら。

 梅は、優しく微笑むではないか。

 その直後。

「菊ーー! 前はだめよーー!」

 何の躊躇もなく、梅は鋭い声を上げた。

 夜空を、まっすぐ突っ切る矢のような声。

 景子がびっくりしていると。

 そのまま──梅の身体は、くったりと力を失ったのだった。