黒の三日月

「あら? 誰か来たのかしら?」


お墓には明らかに最近来たと思われる真新しいかすみ草の花が供えられていた。

お父さんが出張前に来た? でもそうしたと言う事、お父さんが黙っている訳ないと思うし。

それに隠し事はしない主義だって言っている人が隠し事だなんて、ね。


「お兄ちゃんのお友達とかじゃないの?」


身内である親戚のおじいちゃんやおばあちゃんの家は此処からでは遠すぎるから。

考えられるのはそれだけしかない。

その私の言葉にお母さんも納得し、かすみ草と一緒に持ってきたコスモスの花も供え始めた。

かすみ草だけだったのがコスモスによって少しまた明るくなったような気がする。

水撒きやお線香をあげたりしてから、墓前で手を合わせて目を瞑る。

この僅かな時間だけが私とお兄ちゃんの秘密の会話が出来る唯一の時間だ。