食堂へ入ると鶴岡と半田が立って居りお辞儀した。そしてテーブルを見ると、陸の分だけの食事が用意されており、広いテーブルが寂しさを演出している。


「では私は木梨さんのところへ行って参ります」


 半田は持っていたトレイの上にある食事を、木梨のところへ持っていくようだった。 
 残った鶴岡は静かに立っており、陸は食欲もないが、料理人がせっかく作ってくれた料理を残すのも申し訳ないので、少しづつ口に食事を運んだ。

 この屋敷へきた初日などは、豪華な食事を囲み、候補者達と盛り上がったのに。俺はこうして今、独りで食事をしている……。それに、例え鶴岡にもう一度、黒岩玄蔵氏のことを訊いたところで口を開かないだろう。そうだ、まだこの屋敷で入っていいと云われている部屋で、まだ訪れたことのない部屋があったはず。大浴場と二階の図書室だ。食事が終わったら、まず大浴場へ行ってみよう。気分転換になるかもしれないし、何か閃くかもしれないから。
 
 食事が終わると陸は一階にある大浴場へ向かった。大浴場は食堂を出て左に曲がり、十字路で右に向かい一番奥の右側である。

 大浴場は磯崎が説明した通り、男性、女性と分かれていて、陸は「男性」とのれんに表示されている方に入ると、すでに先客がいるようだった。脱衣所には棚があるのだが、下の段には衣類が置いてある。

 陸は小さいタオルで前だけ隠すと、もう一つの扉を開けた。

 大理石の大きな湯船があり、すでに浸かっていたのはコックの川西だった。陸が入ってきたことに気付いた川西はきちんと挨拶した。