亮佑の家に着くと玄関前に大きなバッグを持った彼がいた。


「すいません。お願いします」

バッグは車のトランクに乗せて、亮佑は後部座席に乗せて空港へ向かって再び走り出した。




この微妙な距離が逆に緊張する。

ちらっと見ると亮佑は窓の外を眺めていた。


そうだよね。

ここにまた戻ってくるのは2年後。

今見ておかないとしばらくは見られないもんね…。



窓枠に肘を掛けて、頬杖ついて外の風景を見ている亮佑を、あたしはチラチラ見ることしか出来なかった。


「でも亮佑君がいなくなると寂しくなるわね」

車内の静まり返った空気をママが打ち消した。

「ねー、パパ」

「そうだな。でも2年なんてあっという間だろう」

「私達の2年間と高校生の2年間とじゃ全然違うわよ」


そっか。

大人になったら2年間なんてあっという間なんだ。

いいな…。

あたしは今から2年が人生で一番長くなりそうな気がする。



ふと前を見るとルームミラーに自分の顔が映っていた。


ひどい顔…。

もう1週間こんな顔だからいつもの顔なんて忘れちゃった。

あたしの普通の顔ってどんなだったっけ…。


「帰って来たらまた遊びにおいでね」

「あ、はい…」


はいとか言って本当にくるの?

そんなこと聞いたら本当にくるって期待しちゃうよ。

帰ってくるの楽しみにしちゃうよ。


それで実際は遊びになんてこないんでしょ?

社交辞令なんて大嫌い。

そんな嘘の約束なんかしなきゃいいのに。

意味わかんない。



もう泣きそうだよ。

今日は泣かないって決めたのに。


亮佑の前では絶対泣かない。

そう思うのに視界はだんだんぼやけてくる。


今はこっち見ないでね。

空港に着く前に止めるから。