「お待たせしました!」

待ち合わせ場所に着いて、相手を見つけると、まず私は謝った。

「俺もさっき着いたところだよ」

常套句。

「すいません」

「気にしないで。5分も遅刻してないよ」

「ありがとうございます」

「お店、予約してあるんだ。行こう」

「はい!」



小洒落たダイニングバー。

オレンジ照明に、BGMのジャズが心地よい。

「みどりちゃん、なんか、緊張してる?」

くすりと笑って、村松さんは言った。

「そうかもしれません。こんなお店初めてです。村松さんはよく来るんですか?」

「たまにしか来ないよ。初めてのデートだから気合い入れないと★」



村松さんに、あけましておめでとうメールで、デートに誘われたのは3日前のことだった。

「いゃあ、最近みどりちゃん、全然バイト入ってくれないからさぁ」

「すいません。いろいろ忙しくて」

年末から、私は、1号店のほうには、ほとんど顔を出していない。

1号店の店長が腰を痛めて、療養中なので、2号店の店長であるヒトシが、1号店も仕切ることになったのだ。

本来なら、そういう場合、ヨッチーが店長になるはずだったが、彼は死んでしまった。

1号店乗っ取り大作戦は成功したのだ。

私は、工作員として1号店にいる必要がなくなってしまった。

1号店でのアルバイトは、すっぱりやめてしまっても良かった。

でも、いろいろ気になることがあって、完全に1号店から離れる気には、まだなれない。