屯所を出て、事務所の前の通路に戻る。


私達を見つめる新撰組の面々に一礼すると、店長は扉を閉めた。
刹那、静寂がその場を支配する。


『…さて、開くかな?』


ドアノブから手を離すことなく、先程スライドさせた扉を今度は押してみる。



ガチャッ…









呆気なく、扉は開いた。

見慣れた白いテーブルに、味気無いパイプ椅子、埃を被ったテレビ。


『…開きましたね。』


雛が店長の隣で呟く。


先程までの出来事が、まるで夢のように感じられた。


『さ、まずは金庫チェックしなきゃ。』



雛を先頭に、ゾロゾロと事務所に入る。

メイクを直すあおい、机の上に広げたままの書類を片す店長、金庫金を調べる雛…そして、携帯を弄りながら先程の出来事を思い出す私。




−−…白昼夢。




そんな言葉が頭を過ぎるも、それにしては同じ夢を見た人が多過ぎる。
手元には、今日会計をした時の長いレシートも残ってるし…。


『…美穂、大丈夫?』


金庫チェックを終えた雛が、心配そうに私を覗き込む。

『…あ、うん。大丈夫だよ。』

手にしていた携帯を上着のポケットに仕舞うと、顔を上げてそう答えた。
そんな私を見て、雛が口を開く。

『強盗に襲われた時は…ありがとね。美穂が体当たりしてくれなきゃ、とっくに死んでたよ。』


申し訳なさそうに言葉を紡ぐ美穂。
その話を後ろで聞いていたあおいが身を乗り出す。

『ねぇ、それ警察に言わなくていいの?助かったとはいえ、強盗に遭った訳だし…。』


心配そうに眉を寄せるあおい。その様子を見て店長が纏め終わった書類を鞄へと押し込んで私達の方を向く。

『脅されはしたけど、怪我をした訳でもなければ金を取られた訳でもないしな。むしろ強盗君は刀で脅されたんだ…また此処に来ようなんて思わないよ。』


−−…確かに。



強盗にしてみれば、訳の分からない強そうな男達が、常に事務所に待機しているように見えた筈だ。しかも、首元に突き付けられたのは冷たい真剣。
…そんな所に、もう来たいとは思わないだろう。