それでも良かった。 自業自得ではあるけれど、あの華やかで、かつ醜い争いのある世界に比べたらここは平和で。 出会いが無い。 忙しい。 そんなことを理由にただ抜け殻のように、そしてあの日のようにひたすら忙しさに身を置いて。 そうしていつか倒れて死んでしまえないものかと願っていた。 誰かと生きるのも、一人で生きるのも。全てが怖いから逃げている私。 そんな私を……本名の矢口葵に戻った私を、 いつものように慌ただしく働いていた背中から 懐かしい名前で呼ぶ声がした。