“……加藤、さん……?”

“大丈夫……?”

“…ねえ、加藤さん……?”


落ちたあたしに呼び掛ける、顔面蒼白な鈴木さんの顔が脳裏に浮かぶ。

頭を強く打って、身体もあちこち打ち付けて、鈍い痛みが全身に走って。意識さえも、朦朧としていたのに。

彼女はその後、横たわるあたしを放置して、階段を駆け降りていった。

頭も、心も、治ったはずの身体の傷も、その記憶が鮮明になっていくにつれ、強く疼く。

その記憶を切り口にして、あたしの記憶にかかっていた靄は、ゆっくりと晴れ渡っていくような気がした。

まだ、全然鮮明じゃないし、ほとんど思い出してはいないけれど。思い出された断片的な記憶の中、あたしの隣にはいつも氷室会長の姿。

ここ最近、見たことも無い彼の笑顔があたしだけに向けられている。そんな場面が、幾度となく脳裏に映し出された。

―――ああ。
もう少しで全部、思い出せるかもしれない。
会長に会えば、全て解決するかもしれない。

だから、確かめに行こう。会長のもとへ。
失くしたものを、取り戻すために――…