「…はぁ。自分の話を始める前に、まずは人の話を聞いた方がいいよ。」

「いや、十分聞いてますよ。
聞いてるけど、あ え て シカトしてるんです。」


だって、そうでしょ?

きっとあのまま部屋の前で待っていても、氷室さんが“入っていいよ”なんて言う訳がない。

さらっと笑って答えたあたしに、氷室さんは心底呆れた表情を浮かべた。


「…相変わらず、いい度胸だね。紫音。」


そうつぶやいた刹那、ガタンと音をたてて椅子から立ち上がった氷室さん。その姿を見て、自分がここへ来た目的をまだ果たしていないことに気がついて。


「あ、そんなことより!」


歩きだそうとしていた氷室さんを引き止めるように、そう声をあげた。