「…まぁ、いいわ。じゃあ、もう一つだけ質問させて。」
「何……?」
「あぁ、別にたいしたことじゃないの。ただあなた……、階段から落ちたときのことは?覚えてる?」
落ちたときの、こと……
「……覚えてない。」
これは検査入院中、ずっと考えていたことだったけれど、どうしても思い出すことができなかった。
もどかしさは確かにあるものの、事故があった時間も下校時間をとうに過ぎている時間帯だったし、誰一人として目撃者なんていなかったので、余計な詮索は諦めていたところだった、のに。
彼女は「そうなの……。」と微かに零し、何かに安心したかのような表情で小さく息を吐いた。
――だから。
だからあたしは、そこでようやく気がついた。彼女はあたしが失った記憶……、恐らく、あたしが記憶までも失ってしまったその原因を知っているのだ、と。