ぱちん、と、頭の中で何かが弾けた音がした。まるで、鈴木さんとはもう、話すことなど無いと告げるように。


「……、もういい。話にならない。早くこの手を離して。」


だから冷たくそう言い放ち、掴まれたままの腕を自分の方に引き付ける。そしてそのまま、鈴木さんに背を向けて、階段を上ろうと足を踏み出した、のに――…


「だからっ、行かせないって言ってるでしょ!?」

「…っ、ふざけなっ……!?!?」


再び引かれた腕に、あろうことかバランスを崩してしまったあたしの体。踏み出していた足は一段上の階段に着くことなく、宙に浮いたまま。

周りの景色が、いつになくスローモーションで流れる。気づいたときには、視界は反転していた。

そして体中に響いた衝撃に、少し遅れて痛みが走る。見上げた先、手を伸ばしたまま顔面蒼白になっている鈴木さんの顔を見て、ようやく自分が階段から落ちたのだと理解した。