ま、別に人に見られてても、聞かれてても、全く問題はないんだけどさ。

そろそろ教室に戻ろうと足を踏み出したとき、聞こえてきた隼人の声に耳を傾ける。


「ま、とりあえず、さ。紫音は紫音らしく、が一番いいってことを言いたかっただけだから。」


それだけ言って隼人はあたしに背を向け、振り返ることなく、右手だけをヒラヒラさせて自身の教室に戻っていった。


「……何なんだ。変な隼人。」


思わずそうつぶやいてしまったものの、隼人が隼人なりにあたしの恋を応援してくれてることくらい、あたしだってわかってる。

いとこでもあるせいか、一応、長いつきあいである隼人。
どんなに言い合いをしたって、くだらない喧嘩をしたって、隼人があたしの理解者であることには変わりないのだ。

だからこそ隼人は“紫音は紫音らしくが一番いい”って言ってくれた。“嫌いじゃない”って…

そんな隼人の“素直じゃない優しさ”あたしも嫌いじゃないよ。ま、本人には言ってあげないし、その気持ちも氷室さんへの愛には到底適わないけれど。