ブレザーのポケットに手を入れ、携帯を取り出す。パカっと開くと同時に発光するディスプレイ。表示された時間は、作業終了時間の17時をすでに30分も過ぎていた。


「遅いな……」


小さく息を吐き、携帯を閉じる。
立ち上がった足で窓際まで行き、広がる景色に視界を委ねた。

――刹那、


「…あれ?」


静かに開けられたドアの微かな音に混ざって届いた、聞き覚えのあるような、無いような、何とも記憶に曖昧な声。

間違いなくあたしの待ち人では無いことは確かで、驚いて後ろを振り向けば、あたしと同様、何とも言えない表情を浮かべた鈴木さんが、そこにはいた。