でも、全然これっぽっちも笑いごとなんかじゃないのに。
これでまたゆっくり二人になれるチャンスは、放課後までやってこないじゃないか。


「…ほら、早くしなよ。僕、先に行くけどいいの?」


でも、ぶつぶつとふてくされかけたあたしの耳に、聞こえてきたのは機嫌を直すにはもってこいの言葉。

だってそれってもしかして。
遠まわしに“一緒に行こう”的なアレじゃないですか。


「ダメです!今行きます。だから待ってて下さいー。」


一気に、瞬間的に、表情や気持ちがコロコロ変わるあたしは、きっと誰よりも単純だ。

でも氷室さんの言葉だよ?
喜ばない方がおかしいでしょ。

ほとんど教科書が入ってないカバンをひっつかみ、ドアのところにいる氷室さんの元へと急ぐ。

すみません、と頭を下げれば、クスリとまた、頭上で笑い声が聞こえた。