恋せよ乙女


「もー、相変わらず酷いですねー。」


そんな軽い悪態をつきながら、何だかんだ言って立ち止まってくれていた氷室さんと並び、再び歩き出す。

擦れ違う人々とは対照的に、あたしたちの間には特に会話なんてないけれど。氷室さんがあまり自分から喋らない人だっていうのは知っているし、今のこの状態も決して居心地が悪い訳ではない。

隣に、氷室さんが居る。
あたしだけに笑いかけてくれる。

それが普通で当たり前なんだとそう思えること、感じられること、それだけであたしは幸せなのだ。

そんなことを考えながら、ふと、隣の氷室さんの顔を見上げてみる。
強い日差しになのか、取り巻く喧騒になのか、さだかではないけれど、眉根を寄せながらただ前方を見据えている様子に、思わず笑みが零れた。