「…生け贄、の時…」


ルーダーベはポツリとヴェルデが呟いたのを聞き逃がさなかった。ルーダーベは、ヴェルデを睨み付ける。


心外だ。

「違う。そんなものじゃない。4人のヴェーダが一つになる、知識として次の世代へと引き継がれるんだ」


自分が、賢者《ヴェーダ》という存在だと自覚してから、自然と生まれた使命感。
それを侮辱されたような気分だ。

「ヴェルデ。口が過ぎたぞ」


「…申し訳ありません」


「私に頭を下げてどうする。下げるべきは、ルーダーベにだろう?」


「…申し訳ありません。口が過ぎました」


ヴェルデはリグ王に向いていた体をルーダーベへと移し、深く頭を下げた。
そんなヴェルデを見てルーダーベはここが王宮であり、ヴェルデも庶民な自分よりずっと位が高いのだとはたと気づく。


「…いえ、ボクも王の側近ともあろう方に…失礼な態度を」


頭をあげてくださいとルーダーベはヴェルデに促した。
彼は渋々、その頭を上げた。
が、なんとなくこの場の雰囲気が重いと感じ、右隣にいる王に視線を向ける。
そんな王と目がぱっちりと合った。
その顔はとても満面の笑みだ。


「気にすることはないよ、ルーダーベ。君は私の大切な客人なんだから、その客人を敬うのは当たり前のこと。だろう、ヴェルデ?」

微笑みながら、ヴェルデへ同意を求めている。
しかし、ヴェルデは固まってしまっている。
何故なら

「…王、目が笑っていません。ヴェルデさんがー‥恐ろしさのあまり固まっていますよ」


「あはは。そうかな?」


そうです。
と言いたいルーダーベだが、未だに目が笑っていない彼に口に出すのは、油に火を注ぐような気がして開きかけた口を閉じた。