初めて、見る光景。
ところどころで見られる風景が、まるでアタシを知りえるものだとして、そこにあるみたいだった。
ため息もつく暇がないままに、アタシは一言だけ呟いた。
『知らないものばかり・・・』
『そりゃそうだよ。初めての世界だもんね。名前は?』
『名前・・・』
少しためらった。
名前なんて聞かれたことはなかったけど、自分で自己紹介することがなかったから、少し緊張した。
『鳶さんは?』
鳶さんは、一瞬間を置いた。
『オレ?オレには名前なんてないよ。えっとね、ちなみにオレを鳶さんなんて呼ばないでほしいよ。逆に言えばさ、オレを何て呼びたい?』
アタシこそ、一瞬絶句した。
そんなこと言われても、わからない。
『鳶さんは鳶さんでしょ?』
『だったら、鳶さんでいいよ。でも、それだと味気ないでしょ?だったら、なんか名前つけてよ』
『わからないよ』
『それだと意味ないよ。早くつけてみて』
しばらく、アタシは悩んでみた。
鳶さんが時折見せる笑顔を見ながら、少し考える。
『う〜ん・・・鳶さんは・・・何が好き?』
『そうくるの?えっとね、そうだねぇ・・・一応、柔らかい風が好きかなぁ。舞うには最高だよね』
和やかに笑う鳶さんを伺い見ながら、アタシも少し笑った。
『余計にわからなくなっちゃった』
『いいよ。そうしたら、オレのことをカイトって呼んでよ』
『うん、いいけど』
カイトは、風が好きなんだ。
じゃあ、アタシは・・・何が好き?
少し悩んだ。
『好きな・・・もの』


