【完】最期の嘘

汐の連絡先を聞き、部屋を後にする礼治。



電話帳を開くとメモリーの中にある『如月汐』の名前。



それだけで、心臓が圧縮され、キュン、と締め付けられる。



その締め付けは、苦しいようで心地良い。



「いいんだ。しーが幸せな顔をするのが、傍で見れるなら。」



想えば想うほど苦しい。自分の物にしたい。そんな濁った感情は礼治の穏やかな無表情には感じられない。



それは、彼の恋愛観が普通の人間と違うい、『想えるだけで幸せ』だからなのかもしれない。



夜の、肌寒い風が、車のキーを回す礼治の銀髪を揺らした。