「しー…。」



汐の方へ吸い込まれるように動く礼治を、ハイジは細い手首を掴み阻止する。



「お前…また自分から苦しみに行くのか?」



ハイジのギラリと光る大きく少し釣り上がった目に、礼治は首を横に振る。



「違うよ。俺、自分のため、しーのとこ行く。」



自分のためって…一体、何考えてんだよ、礼治。



ハイジは呆れ気味に溜息をつき、掴んでいた手首から手を離した。


「分かったー。待ってるからほれ行ってこい!」



何を考えているかなんて分かんねえけど、こいつの目、信じてみようかな。



自分の言葉に強く頷いた礼治の澄んだ灰色の瞳を信じ、ハイジは細長い背中を見送った。