三月十一日

 地面が揺れた

 そして海が牙を剥いた

 それは一瞬の出来事だった

 大人も

 子供も

 老人も

 赤ちゃんも

 犬も

 猫も

 ネズミも

 蛇も

 生きとし生けるもの

 全ての命を飲み込んで行った



 生きたかったろうに

 己の無力が虚しかったろうに

 怖かったろうに

 苦しかったろうに

 痛かったろうに

 寒かったろうに

 寂しかったろうに



 エピクロスは

 死は恐れるに足りないと言った

 死の瞬間には

 それを畏怖する自分は居ないのだからと



 そんなの詭弁だ



 みんなみんな

 命の灯火が消える最期の瞬間まで

 足掻いて

 もがいて

 泣き叫んだに違いない



 せめて

 今時間と共に在る私達は

 彼らを弔おう



 魂を鎮める歌を唱おう



 彼らが生きられなかった今日を

 大事に大事に生きていこう



 助け合って

 励まし合って

 支え合っていこう



 彼らの分まで



 彼らに恥じぬよう



《黙祷》