私は彼の姿が見える前に、アパートの階段を駆け下りた。 「…はぁ…はぁっ…。」 入院していたせいで体力のない私は、車のよく通る道に出たところで足が止まった。 私のすぐ横で車が走っている。 不思議と飛び込む気分にはならなかった。 絶望的なはずなのに、どこか本当のことがバレてホッとしていたのかもしれない。 「……あ。」 現実の世界。 今度こそ自分の意思でここに戻ってきた。 昼間は曇っていた空からは、すっかり雲がなくなり そこにはくっきりと三日月が輝いていた。