「じゃあ」 そう言って部屋から出て行く背中は、一度として振り返ることはない。 そして綾香自身も、呼び止めるつもりはない。 彼の左手の薬指にはまる、プラチナの指輪がそれを許さない。 振り返らない背中を見送ったあと、綾香は必ず香を焚く。 そうしてこの部屋から、彼の匂いをすべて消しておく。 綾香自身も必ずシャワーを浴びて、躰に残った匂いをすべて洗い流す。 .