寒い中、コートも羽織らずにベランダに佇む彼女に、なぜかキリリと胸が痛んだ。 白いマグカップにコーヒーをふたつ淹れ、彼女にブラックの方を差し出すと、また少し驚いた表情を見せた。 「…違った?」 そう卓也がたずねると、彼女は弱く首をふった。 「…覚えてたんだって思って…」 ──…忘れるわけがない。 この十年、卓也は一日たりとも忘れた日はなかった。 ──君を、想い出さない日はなかった。 .