・・ウェスタの神よ。どうぞお助けください。
日暮れにはいま少しの猶予がある。
誰かが通りがかる可能性が皆無ではない。
それでも、勘のいいものならたくさんの入り乱れる馬の足跡を見ただけで何が起こったかを察知して、
決してこの場所へは近づかないことだろう。
ニュクスは神に祈るより他なかった。
掌を叩かれた男は、反対の手で頭をかきながら部下たちに目配せをした。
合図をされた男たちが、懸命に抱き合う二人を引き離しにかかる。
「きゃあ!」
「何をするのです!彼女を放して!」
後ろから羽交い絞めされた侍女が、身をよじって抵抗する。
ニュクスが助けようと持ち上げた腕は、盗賊の頭と思われる男にやすやすとねじり上げられた。
「あぁっ!」
「姫様!」


