「ニナ。構わないから、私を置いて逃げなさい」
「そんな!無理でございます。姫様を残してなどいけません」
「いいから!
誰か一人でも助からなければ、私たちに何が起こったのか誰にもわからないのよ。
何が何でも逃げ延びて、この事をお父様に知らせてちょうだい!」
少女の気丈な声が森にこだまする。
護衛は、おそらく全滅したのだろう。
あるいは、襲ってきた盗賊を防げないほどの手傷を負わされたか。
もともと、小さな山一つ超えた場所にある母親の実家から、両親の待つ家に帰るだけの話だった。
旅の行程もわずか一日。旅ともいえぬ距離である。
しかも、ここはウェスタ国の中心都市で、王の住まいや神殿がある場所に程近い。
国の中でももっとも治安の良いはずのこの辺りで、まさか危険もあるまいと、
護衛の数も片手で足りるほどしかつけていなかった。


