「王子らしくない、か」
小さく呟いたロカの声と一瞬見せた切ない表情に、ニュクスの胸がずきりと痛んだ。
「あの、王子?」
「そうだな!俺はもともとこうなるべき立場の人間でないんでな。
名前で呼べ。ロカでいいぞ!」
ニュクスは、とっさに、はいと返事をした。
うまくごまかされた気もしたが、それを追求できるだけの関係にはまだ遠い気がする。
それにしても、毎回こんな大騒ぎをして、一体どれほどの金が使われているのか、
そう思い至ったところで、ニュクスははっとした。
「そういえば、ロカ様」
「なんだ?呼び捨てでいいぞ。ロカで」
かなり呑んでいるはずだが、相当に強いのだろう。
ロカの顔には赤みすら差しておらず、最初に紹介されたときと大差ないように見える。
「私が与えた、いえ差し上げたお礼をどうしたのです?」
盗賊から守ってくれた礼にと、ロカには庶民がゆうに半年は暮らせるほどの金を積んだはずだ。


