ウェスタには、その文明が発生するのと同じくらい古い起源を持つ、神への信仰があった。

王宮と同じ敷地内に、一見荘厳に見える神殿が建てられており、

そこには大勢の巫女たちが厳しい戒律の元、神に祈りを捧げながら暮らしている。


アニウスの妹、ラトナが、ウェスタの神官となるべく志願して神殿に赴いたのは、ほんの半年ほど前のことだ。

ウェスタの巫女の戒律は厳しく、中でも異性との接触は最大の禁忌であった。


そんな人間が妊娠などしたらどうなるか。

真昼だというのに、アニウスは背筋に冷たいものがはしって身震いした。


「どうするおつもりなのですか?

ラトナに、死を持って償えと、そうおっしゃるおつもりですか?」


アニウスの質問に、父はゆっくりと首を横に振った。


「確かにウェスタの巫女が遵守すべき規律は多い。

だが、我々は貴族だ。奴隷上がりの巫女たちと違い、抜け道がないわけではない」


「と、言いますと?」


父が声を潜めたのにならい、アニウスも周囲を気にするように声をおとした。