侍女が近づき、ロカの空になった杯に酒を注ぐ。
アニウスはロカに一礼すると、そのままつま先を反転させた。
「アニウス。今の言葉、たがえるなよ」
振り向いたアニウスが見たのは、侍女の肩を抱いて豪快に笑う、
“いつもの”ロカの姿だった。
浮かれ騒ぐ人々の中に、彼らが重要な約束を交わしたと気づくものなどない。
ただ一人、ニュクスだけは、二人の間に流れた異様な空気を察していた。
・・アニウスと、何を話していたのかしら。
どうしてこんな男を好きになったのか。
ニュクスは自問自答しながら、ロカの姿を目の端で追っていた。
だから、一瞬だけ見せたロカの奥底から湧き出るような瞳の輝きを見逃さなかった。
祝いの場に似つかわしくない、野生の獣のような瞳。
じっとロカを見つめていると、彼の視線と交差した。
瞬間、なんだ?というようにきょとんとした顔を見せたが、
すぐに挑発するように、杯を自分の方へ向けて持ち上げた。


