「なんのことで、ございましょうか」
蛇に睨まれた蛙のように、アニウスの心臓がどくんどくんと打ち付ける。
が、
「一族から謀反人が出ることを恐れたか?」
ロカのその一言が、かえってアニウスに冷静さを取り戻させた。
自分が、父を斬ったのは、
「何のことか存じませんが、もし仮に謀反人がいたとすれば、
そんな堕落した者は、たとえ誰であっても斬り捨てましょう」
この国の未来のため。
「ならば、もしもお前が堕落した場合はどうする」
妹のように、懸命に生きる人間が報われる世を創りたい。
だから。
「もしも、私が、堕落した臣になったときは・・・。
そんなことになることは万に一つもございませんが、
そのときは、どうぞ遠慮なく私をお斬りください」
ロカは口の端をわずかにあげると、そのまま一気に酒を飲み干した。


