戦で負った怪我ならばたたえるし、落馬ならあきらめもつく。
しかしよりによって、結果を予測できる行動をすすんでとって怪我を負うなんて。
幸い命に関わることはなかったが、それでも城中が大騒ぎになった。
兄弟を失った、歳若い王。
万一の事があれば、跡を継ぐのは、6歳のマルスと3歳のディスコルディアしかいないのだ。
それにしても。
ふっと、ニュクスの瞳から怒りの炎が消え、不安そうに揺らめく。
「近頃、王はどこかおかしいと思わない?
この間は、巨大な船を建造するとか言って、国の予算の半分以上をつぎ込もうと提案したそうよ」
「まぁ、本当でございますか?」
ニュクスと違い、ヴェローナは決して他人の噂話などを口にしない。
特に、それが政に関することである場合は、決まって自ら耳にふたをする。
それが、彼女なりの“政に対していっさいの影響力を持たない”という姿勢であることを、
ニュクスは良く知っていた。


