そのときのわたしは 余裕なんてあるはずもなく 自分の恋人が 他の人を愛おしそうに見つめるのを 目撃してしまった衝撃も悲しみも 恋人が好きだと言ってくれるのを 信じることができなかった 自分への苛立ちも辛さも わたしは わかろうともしなかった 谷君がどれだけ悲しみ 悩み ひとりではいられなかった心細さを抱えて 逃げてしまったことを どれほど悔やんだか そんなことを 考える余裕はなかった ただわたしは 自分の悲しみに閉じこもって 自分を守ることで 精一杯だった