粉雪-3年後のクリスマス-

 クリスマスの観覧車はどういうわけか激しく混雑しており、二時間ほど並んだ。

普段は並ばなくても乗れるような小さなテーマパークも、この日は大盛況。


順番待ちをしている大半のカップルは、赤い鼻や手をこすりあって、それはそれは幸せそうだ。



 俺とは正反対に。


 迫りくる恐怖に、いかにして平常心を保つべきか。

悶々と悩んでいるのに気づいてくれないカノジョは、さらに追い討ちをかける。


「じゃーん」

 嬉しそうに出したのは、平べったいコイン。


「なに?ゲーセン?」

「ちがうよ!最近流行ってるんだ、このコインチョコ」

 昔からある、あのコインを似せたチョコだ。


「でも普通のとはちがうのォ」

 むふふ、と意味ありげに笑い、黒々としたまつげをぱっちりと見開く。


「観覧車のてっぺんでね、端っこ同士をくわえてお祈りするの!」

 そんな何気ないカノジョの一言は、断崖絶壁へと立たされた気分にさせる。


 嬉しそうなカノジョには申し訳ないが、そんなことをしている余裕なんて、毛頭ないのだ。


「楽しみだね!」



 ちなみにその後、だが。

俺は、自分の弱さを口にすることができず、震える足でただ彼女のあとに続く。


ようやく乗り込んだものの。

カノジョはきらきら輝く町並みに感激していたが、俺の体は恐怖でかちかちに固まっていた。


 正直、それどころじゃあなかった。