粉雪-3年後のクリスマス-

「日本を発つ日、ユキくんとここで約束したの。
最初は嫌がられたけど、最後だからって無理やり……ね」


 何を思って、“彼”は彼女と約束をしたのだろうか。

弱まることのない雪に聞いても、答えることはない。


「だけどね、会えなかった」

 静かな廃墟に、彼女の声が響く。

凛とした、息遣い。


「ちょうど三年前のこの日、ユキくんは───死んでしまったから」


「…じゃあ、なんで……っ」


 どうして俺に電話をしたんだ。

もう、いるはずのない相手に。


 俺をまっすぐ見据えて、まあるい瞳をさらに丸くさせて彼女は笑う。


「なんとなく、会える気がしたから……かな?」


 取り留めのない答えを、俺に託して。


「電話がつながって、正直びっくりした。
……もしかしたら、本当は生きているんじゃないかって、浮かれていたの」


 俺だって、驚いた。

いきなりかかってきた電話で約束させられ、そして───


「信じなくてもいい。……実際、あなたが来てくれたことに、かなり驚いてるから」


 大好き。

彼女の想いは、どこへ行くのだろう。



「本当に、ユキくんはいないのかぁ」


 身をはせるように、夜空を見上げた彼女は白い息を吐いてふふふ、と微笑んでいた。


.