粉雪-3年後のクリスマス-

 翌朝、冬にしては比較的暖かい日だった。

マフラーもお役ゴメン、といいたげな気候の中、昨日は小さかった背中を見つけた。


「よ、おはよ」

「ユキ……」

「………」

「………」


 なんとなく、無言。

会社のビルへと続々と入っていく人ごみに紛れ、なにかかける言葉はないかと必死に探していた。


「こ、ないださ……牛丼、さんきゅな」

「ああ、ついでだよ」

 照れくさかったので顔も見ず答えると、隣からはくすっと笑った声がする。


「あれから、なんか進んだか?」

 いつもの調子を戻してきた同期が覗き込んでくる。

おそらく、紹介してくれた調査会社の話だろう。


「道のりは長いかな」

「はは、そっか」

 同期には話してもいいのかもしれない。

けど、誰かに「なんでそんなことしてんの?」などと否定されたくもなくて。


間違い電話の彼女は、俺しか知らないのだから。


「…ユキ、お前さ」

「んん?」


 エレベータホールに辿り着き、順番待ちをするときだった。

少し小声で顔を近づけてきたから、俺も同じように顔を近づける。


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