粉雪-3年後のクリスマス-

 今日は引き上げよう。

と踵を返したとき、目の前で一人のおばあさんがつまずいていた。


「だ、大丈夫ですか?」

 慌てて駆け寄ると、しわしわの顔を緩めて笑い返してくる。

「ああ、すみませんねぇ」

 おとなしい色の着物で、年はかなりいっているだろうが、物腰の柔らかそうな印象を受ける。

ゆっくりと立ち上がらせて軽く膝をはたいてやると、おばあさんは腰を静かに折る。


「わざわざ親切にありがとうございます」

「いえ、これくらい……」

 俺もひざを伸ばして立ち上がると、軽く会釈をして通り過ぎる。


 こうして、誰かが笑ってくれることをするのは、好きだ。



『誰』かが……笑ってくれる…。


 動かしていた足を止め勢いよく振り向いて、俺は息を吸い込んで声を張り上げた。


「あ、あの、すみません!」

 俺の声におばあさんは反応してくれ、怪訝そうに振り向いてきた。

息を切らせて、もう一度おばあさんの元へ駆け寄る。


「…なんですか?」

 小首をかしげたおばあさんに、息を整えて俺は向き直る。


「ご存知、ないでしょうか?」


 俺が、『彼女』にできること───


「この辺りでコナカさん、というお宅をご存知ありませんか?」




 ──寂しそうな君を

少しでも笑顔にしたいんだ。


.