粉雪-3年後のクリスマス-

 自分は慣れているものの、なかなか他の人が怒られているのは見慣れない。

ましてや、あのあいつが。


「どうやらクライアントに渡す資料を失くしたらしいの」

 先輩がそっと近づいて耳打ちをしてきた。

らしくないミスだ。


「すぐ、作り直します」

「納期は今日なんだぞ!即、やれ!」


 コピー機の稼動する音がやけに耳障りで、話し声も微かにしか聞こえなかった。


「ユキくん、彼をよろしくね」

 先輩はにっこり微笑んで、「いってきまーす!」と空気をぶち壊して外出していった。

そうしてオフィスはいつものとおり動き始めた。



 手が空くと、あいつからよく俺のところに来てくれた。

俺はいつも自分のことばかりで、あいつの弱音なんて聞いたこともなかった。


だから、せめて力になりたくて。


昼休みに入ると仕事を簡単に片付け、俺は同期の元へと向かった。



 朝から険しい顔してパソコンに向かう姿は、周りの女の子たちもびっくりするくらいピリピリしている。


「手伝おうか?」

 そんな俺の言葉に、一瞬ぴくんと反応したが、無言で顔を横に振っただけだった。


「珍しいミスだな、お前らしくない」

 きっと「ちょっと浮かれてたかなー?」とかおどけてみせるのだろう、なんて思っていた。

だから、次に返ってきた言葉に俺も声を失った。



「俺らしくない、ってなんだよ。いつもなんでもできるわけじゃない!」


 ピタリとキーをたたく指が止まり、悔しそうな表情で同期は見つめてきた。

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