「……まったく」

 まあ、そんななにも気にしていないような素振りに、どこか救われたのも事実なわけで。

カタン、とコートをしまい、デスクへと向き直る。


 義理がたく、参加を前向きに考えようか。


なんて悩みはじめると、


「ユキくん、ちょうどよかったわ」

 声をかけてきたのは、しわもないスーツを身にまとい、きりっと髪を纏め上げた女性。


「あ、おはようございます、先輩」

 新人時代の教育係をしてくれた、キャリアウーマン街道を独走中の頼れる先輩だ。

そりゃあもうってくらい仕事がデキるし、面倒見もいいし、厳しい。


俺の持っていないものをすべて詰め込んだような人だ。


 年は十歳ほど離れているが、そんなことをわからせないほど活き活きとしている。

俺が言うのもなんだが、先輩の瞳はいつだって若い。


そんな先輩が、眉をひそめて声を小さくした。


「さっき課長が探していたけど……平気?」

「え」

 先輩も知っている、課長の性格。

それが何を意味するのか、さすがに俺でもわかる。


「ふふ、がんばってネ」

「……はい」


 ひらりと身を翻し、先輩は大きなかばんを抱えて部屋を出て行った。


 先輩に続くように、俺も仕事をしなくては……。

これから起こるであろう出来事に、ため息をそっとしまった。