そんな悲哀のどん底を垣間見た瞬間、ふとよぎる。



『ユキくん、……大好き』



 ───あの彼女は、待っている?


俺の名を呼んだ彼女を思い出したが、すぐ否定した。


「…って、俺じゃないじゃん」



 そうだ、何を勘違いしている。

名前すら知らない受話器ごしの彼女は、俺ではない誰かを待つのだ。



 並んでいたホームにちょうど、俺の家に向かう電車が強風を巻き起こしてやってきた。

ゆっくりと目の前に停車し、今にも泣きそうな自分が一瞬写る。



「所詮、俺はいつまでたっても詰めが甘いんだよな……」


 己のふがいなさを知るだけだった。





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