男は何が起こったんだか
わからない様子の
唖然とした顔で棗を見つめた。

その男を棗は睨みつける。
離れてもやはり色は変わりない。
今までに見たことのない色が
目の前の男から入ってきた。

「気安く、触らないで」

そう呟いて呆然とした
男の脇を通り過ぎる。

男の元には次々と
女生徒が駆け寄ってくる。
あっという間に辺りには
人だかりができた。

男子生徒も騒ぎが気になるのか
チラチラと見つめている。

人だかりを押し退けるようにして
抜けると棗は足早に駆けだした。

感じ悪いと叫ぶ女生徒の声が
遠い後ろから聞こえた。

構わずに走り
少し離れたところで足を止める。

見たこともない感情の色
そして人とは全く違う
その形を思い出して
背筋が震えた。


あの男は人間じゃない。


闇の中に見えたかすかな色を
棗は頭に思い浮かべた。