その後の教室で棗は
見かけなかったがてっきり
いつものように出席だけ済ませて
どこかに行っているのだと
思っていた。

「婚約者の人と2人でいたよ」

何気なく口にした言葉に
柊が樋野の方へ視線を向けた。

「東條様を見たのですか?」

少し強い口調で言われ
名前は知らないですけど、と
樋野は慌てて言った。

柊は考え込むように
顎に手を添えた。

凛子の話では学校から帰った後
食事を運んだらいなかったと
言う事だった。
夜中になっても帰らない為
屋敷に戻ってないかと
電話を掛けてきたのだ。



「…どんな人でした?」

小声で聞いてくる瑠璃に
樋野は首をひねった。

「見た目は綺麗な感じだったけど
…恋人っぽくはなかったな」

棗の妙によそよそしい雰囲気を
樋野は思い出す。

「…西園寺さん、結婚するの
気が進まない感じだったから」

柊の視線を感じて瑠璃は
ハッとした。
あ、スミマセン!と慌てて謝る。

あの、でもわたしの想像なので!
と、取り繕うように言う瑠璃に
柊は穏やかな笑顔を見せた。