「此処、女の子の憧れよ。翼はどうして此処に?」

 手違いで……とは言えないよな。

 「もしかして、性転換手術でもしたの? 残念だけど、まぁ友達でもいいっか」

 残念って何だよ

 「するか!!」

 「じゃ、変態に変換? なわけないよね。翼が此処にいるって事はよっぽどの事情よね。アタシ翼の見方だから、安心して」

 一番安心出来ない存在だ。
 
 コイツの前にいると、素に戻りそうになる。
 
 せっかく作り上げて来たってのに。

 「ねぇ、契約しない?」
 「何の?」

 「翼の正体誰にも言わないであげる」
 
 助かるよ。

 「その代わり──」

 怪しげな笑みに、恐怖感を感じた。

 俺の感覚は、間違いではなかった。

 それは、男であることを誰にも言わない代わりに彼氏になる。

 拒否すれば、バラすと。

 俺には選択の義がないのか。

 契約という言葉にトラウマになりそうだ。

 嗚呼、俺の人生どうなる!?



 月日は勝手に流れ、俺はポツポツ仕事が入るようになった。

 手始めは、雑誌モデル。

 響きいいだろ?

 イケメン男性モデルだったら俺も舞い踊るんだが。

 「ハイ、これに着替えてちょうだい」

 マネージャーの木崎さんに手に渡されたそれを、ヒラリラと扇がせる。

 当たり前のように、男が穿くような二つの股を通すものがない。

 代わりに大きく筒のようになっている。

 こ、これは──。

 「あのぅ、これ、スカート……ですよね?」

 「当たり前よ。Girlsに掲載されるのよ。今をトキメク少女たちの最先端を飾るの。新人で2ページは大仕事よ」

 「……はぁ」

 いや、だから俺は男なんだってば。

 「時間がないの。早くしてね!!」

 「はい!!」

 木崎さんの勢いに、つい返事をしてしまった。

 この人は俺を本当に女だと思っているのか、からかっているのか、……謎だ。