む、ムリ、無理!!

 彼女の出してきた条件は、私もそのシーンに同行する事。

 それが出来ないから、最後の頼みの綱としてお願いしていたのに。

 な、何故!?

 「だって、台詞は私無理よ、声は違いすぎるもの」

 梨乃は、私より肝が座った女優だよ。

 結局、二人揃って女湯の扉を潜った。

 「か、勘違いしないでよね。あなたのものになるって決めたわけじゃないから」

 「わ、わかってるよ」

 彼女であり、競演者であり、最大のライバル。

 だけど、心の準備とかもしていないわけで。

 「絶対見ないでよ!!」

 「見ません!!」

 でも、ちょっと勿体ないかも。

 バレないようにコッソリ……。

 や、止めておこう。



 「シーン137、よーいスタート」



 ポチャン

 白く濁った湯の中に、小麦色に焼けた肩が浮かぶ。

 もちろん梨乃が湯船に浸かっている。

 私は、少し離れた大きな湯の中にある岩影に身を潜める。

 そのあと直ぐにカメラマンが入ってきた。

 後ろからのアングルで、顔を見られる事はない。

 が、私はこの後とんでもない映像を目にする──。


 「悩みを一人で抱えるなんて……俺がいるだろ?」

 そんなクサイ台詞を吐き、タオルを腰に巻いた桜小路が入ってきた。

 何故!?

 まさか、此処って混浴!?

 「雪菜、寂しい想いさせてごめんな」

 雪菜とは、私が演じている役名。

 しかし、今は梨乃が代役をしている。

 私の台本には、こんなシーンも台詞も書いていない。

 は、謀られた!?

 桜小路は、唯座っているだけの梨乃をいいことに、ベタベタと抱きついているのが、遠目でも分かる。

 もう、限界!!

 正体なんてバレたって構わない。

 俺は岩影から生身を乗りだし、二人の間に入って割った。

 もちろん、撮影は一時中断。

 そんな事より、

 「汚い手で彼女に触るの辞めてくんない?」

 「ツ、ツバサちゃん!? えっ、じゃ彼女は?」

 「俺の彼女」

 「君たちは、……レ、レズだったのか!?」

 アホか。