天地がひっくり返るような大きな驚きの声をあげ、暫し放心状態の梨乃であった。

 だから、俺ももう一度説明した。

 憶測だけどな。

 「それ本当なの? 私が、ヒカル様と一緒に出演できるの!?」

 「ワンシーンだけなんだけどな。頼む」

 友だち役を探していたのは本当。

 「良いわよ」

 けど──。

 「助かるよ」

 嬉しさのあまり、両手で、ガッチリと握手を交わした。

 こんなにも簡単に引き受けてくれるとは想わなかったな。

 「お礼に温泉をプレゼントする」

 実は、こっちがメイン。

 「え~っ!? いいよ~。ヒカル様と生で会えるだけで、幸せだしぃ」

 「いいから、いいから。」

 湯けむりでラインは見えないとはいうものの、やはり俺は女湯に入る事は出来ないし

 梨乃、ごめん。

 本当の事言えなくて。



 毎日授業を終えると収録現場へ直行。

 といっても、校門までマネージャーが車で出迎えてくれるから、わけの分からない地下鉄を乗り継ぐ必要はない。

 こんなに有り難いことはないわね。

 しかも、ゆったりシートのジャガーときたものよ。

 マネージャーって儲かるのかしらね。

 そして、今日はスペシャルゲストの梨乃も同行。

 まるで、遠足にでもいくようなハイテンション。

 間違った選択したかなぁ。

 仕方ない。

 他に頼める人なんかいないものね。

 毎日乗っていると感動も何もない私には、梨乃のこのはしゃぎように新鮮味を感じる。

 車を3時間走らせ目的地についたのは、夕方6時30分を過ぎた頃。

 冬は日が沈むのも早く、空は墨のように黒々している。