こっそり寮に戻ったつもりだったが、しっかりと、見付かってしまった。

 裏口の門の前に箒を片手に、仁王立ちしているのは、寮長こと鈴村 弥咲(すずむら みさき)。

 「10分オーバー」

 「弥咲さん、す、すみません」

 「いいこと!! あなたが国民的アイドルであっても我が寮の一員である事には変わりないの。もっと自覚して欲しいものね」

 「反省しています」

 「まぁ、いいわ。今回は初めてだし、大目に見てあげるわ。連絡は怠らないようにね」

 「はい」

 奇跡だ。

 これだけで済むなんて、あり得ない。

 鬼の門番と噂は聞いているし。

 何かあるのか!?

 とりあえず解放された私は自分の部屋ではなく、梨乃の部屋に駆け込んだ。



 「何か悩み事?」

 何かではない。人生全てに悩んでいる。

 「助けて欲しい」

 「私で力になれるなら」

 ポテチをつまみながら答えてくれた梨乃。

 夕飯食ったばかりだろ!?

 それはさて置き、気を改めて。

 「梨乃にしか頼めない」

 「な、何よ。そんな真剣な顔つきになっちゃって。……お金なら貸さないわよ」

 いつだって真剣だよ。

 それに、そんな願いはしないさ。

 「キスしよう」

 「ちょ、ちょっと待ってよ。えっ!? 急にどうしたのよ」

 「俺、お前の彼氏だろ? なら、いいよな」

 テンパっている梨乃には申し訳ないが、半ば強引に彼女の唇を奪った。

 下唇を甘噛みにし、柔らかい感触を堪能するかのように。

 強く、激しく。