9
「今井さん」
「何だい?」
「何か浮かない顔してるよ。……どうかしたの?」
「いや。別に何でもないんだけど」
俺は努めて平静を装った。
ここのマスターは勘が鋭いのだ。
伊達に脱サラして、料理を勉強しにアメリカまで行ったわけじゃないのだから……。
人間を見る力に長(た)けていた。
俺は付け合わせの、舌を焼くように熱いコーヒーを啜り取りながら、息を吐き出す。
そして、
「俺、今日は三時から定例会議があるんだ。それまでにデスクに溜まってる仕事片付けないと」
と言い、入店時に脱いでいた背広を羽織って、コーヒーをカップにわずかに飲み残した
「今井さん」
「何だい?」
「何か浮かない顔してるよ。……どうかしたの?」
「いや。別に何でもないんだけど」
俺は努めて平静を装った。
ここのマスターは勘が鋭いのだ。
伊達に脱サラして、料理を勉強しにアメリカまで行ったわけじゃないのだから……。
人間を見る力に長(た)けていた。
俺は付け合わせの、舌を焼くように熱いコーヒーを啜り取りながら、息を吐き出す。
そして、
「俺、今日は三時から定例会議があるんだ。それまでにデスクに溜まってる仕事片付けないと」
と言い、入店時に脱いでいた背広を羽織って、コーヒーをカップにわずかに飲み残した