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「今井さん」


「何だい?」


「何か浮かない顔してるよ。……どうかしたの?」


「いや。別に何でもないんだけど」


 俺は努めて平静を装った。


 ここのマスターは勘が鋭いのだ。


 伊達に脱サラして、料理を勉強しにアメリカまで行ったわけじゃないのだから……。


 人間を見る力に長(た)けていた。


 俺は付け合わせの、舌を焼くように熱いコーヒーを啜り取りながら、息を吐き出す。


 そして、


「俺、今日は三時から定例会議があるんだ。それまでにデスクに溜まってる仕事片付けないと」


 と言い、入店時に脱いでいた背広を羽織って、コーヒーをカップにわずかに飲み残した