「ああ。君もな」


「分かってるわ。……でも、休み明けって結構しんどいわね」


「君ぐらいの年だったらバリバリなのに」


「そんなことないわよ。あたしだって、もうオバサンなんだから」


 千奈美がそう言って、照れたようにフワッと髪を掻き揚げる。


 昨夜バスルームで使ったシャンプーとコンディショナーの香りが漂ってきた。


 彼女はいつも香水を振っているらしく、脇からは甘い匂いがしていて、俺の鼻腔をくすぐる。


 その匂いも瞬時にして消え、俺たちは互いに目指す方向へと歩き出した。


 俺は会社へと向かい、千奈美は地下鉄の駅へと吸い込まれていく。


 彼女はカバンに書類などをたくさん詰め込んでいるようだ。


 俺も出社したら、目を通す書類がデスクに山積みされる。


 慌てずに歩き出す。